親権について知っておこう
親権とは、成年に達しない子を監護、教育し、その財産を管理するため、父母に与えられた身分上および財産上の権利・義務の総称です。そして、未成年の子に対し親権を行う者を親権者と言います。
さて父母が婚姻関係にあって子供に対する親権を共同して行えればいいですが、離婚するとなると、必ずどちらかの親が親権をとらなければなりません。
父と母のどちらが親権をとるかの割合は、1:9と言われており、母がとる場合が圧倒的に多いようです。これは、男性が「ばらまく性」であるのに対し、女性が「守り育てる性」であることと無関係ではないでしょう。
それでも近年は育児をする男子=「イクメン」という言葉にあるように、父親が育児休暇を取ることも珍しくありません。また少子化によって、父親が親権を求めて争いになることも増えてきているようです。
すなわち、離婚すれば親権は自動的に母親に決まるわけではありません。ではどのように決められるのか、ここでは親権について解説します。
協議離婚の場合
まず知っておかなければならないことは、離婚の形式にかかわらず、離婚するときには親権者を決め、離婚届に記入しなければなりません。離婚を役所に届ける時には、前もって親権者を決めておかなければならないということです。
この点は財産分与や慰謝料と異なるところで、これらは離婚後に決めることができますが、親権だけは事前に決めないとなりません。
そして国内離婚の90%を占める協議離婚の場合、親権者をどちらにするかは、話し合いで決めることができます。
話し合いで決めるのですから、そこには収入や居住地など、第三者が入る余地はあまりありません。
あくまでも夫婦の合意があればいいということです。
調停離婚の場合
また離婚の9%は調停離婚ですが、協議離婚で話がまとまらない場合は、調停離婚のなかで親権者を決めることになります。手続きとしては、家庭裁判所に対して親権者の指定を求める調停を申し立て、裁判所における話し合いの過程を通じて親権者を決めることになります。
別の言い方をすると、親権者を父母どちらにするかは離婚において重要なポイントですので、親権者が決まらなければ離婚の話そのものが決着しません。したがって親権が決まらない場合には離婚調停の申立をまず行い、調停の中で親権者をどちらにするか決めていくのが一般的です。
しかし、親権者の決定について調停でも折り合いがつかない場合があります。
そのときには親権者指定の審判手続に移行し、裁判所が親権者をどちらにするか指定することになります。
裁判離婚の場合
それでもまだ折り合いがつかない場合には、いよいよ裁判離婚に移行します。
つまり夫婦のどちらかが離婚訴訟を提起し、離婚の成否や離婚条件について争うことになります。離婚条件とは、財産権の分与や慰謝料も含まれ、また離婚をする原因を作った側でなくても訴訟にもちこむことはできます。
最終的には、裁判所が判決で親権者を決定します。
ここでよく、小手先の知恵を使って親権を勝ち取ろうとする話がありますが、まず意味がないと言えます。
それは例えば、離婚時に子どもに金銭の便宜を図って
「誰かから、お父さんとお母さんのどっちが好きかと聞かれたら、お父さんと答えなさい」
と丸め込むような場合です。
仮にこうした「入れ知恵」に成功したとしても、親権の決定については裁判所が幾つもの要件を考慮し、真に子どものためになるのは父母のどちらであるかを判断します。
したがって、こうした行為は無意味であるばかりか、裁判で明らかになるとかえって立場を不利にしかねません。
親権者になるための方法
ただし現実問題としては、父母のどちらとも子供と別れるのは嫌に違いありません。
親権を取りたいと思うのは人として自然な感情で、親権者をどちらにするか、まさに二者択一の問題は、場合によっては非常に難しいと言えます。
そこで裁判所は、幾つかの条件から親権者を判断するわけです。その条件とは、おおむね次のようなものです。
- 1.子供に対する愛情
- 2.子供を育てるための収入など経済力
- 3.親の年齢や心身の健康状態など監護能力
- 4.親族から協力が得られるかどうか
- 5.子供に対する今までの養育実績
- 6.住宅事情や通学状況などの生活環境
- 7.子どもの年齢、性別、発育状況
- 8.環境の変化が子どもの生活に影響する可能性
- 9.兄弟姉妹が一緒にいられるかどうか
- 10.子供本人の意思・子供からの信頼
こう書くと難しいようですが、簡単に言えば「子供の幸せ」を第一に考えているということで、子供にとってどちらの親と生活していくのが幸せになれるかという観点で判断されます。
ここで注意しておきたいのは、親権決定と離婚原因は無関係であることです。つまり、仮に夫が浮気して離婚原因を作った場合でも、それは親権取得に不利に働かないということです。
ただし冒頭に書いたように、父と母が親権をとる割合は1:9ですから、監護のマメさや「かゆいところに手が届く」愛情においては、母親のほうが優っていることは間違いないでしょう。衣食住から教育、健康など子どもの生活全般にわたって子供の監護ができるのは、母親のほうであるとも言えそうです。
なお、親が病気になったり失業したりして生活環境が著しく変わる場合があります。そうした場合、一度決めた親権者であっても、変更することができます。
変更したい場合には、親権者変更や監護権者変更の調停と審判を家庭裁判所に申し立て、新たな親権者を家庭裁判所で指定してもらわなければなりません。
そしてこの場合でも、重視されるのは子供にとってどうかであり、子供の利益(金銭的利益ではなく、子供が健やかに成長できるかどうか)に必要である認められた場合にのみ、親権者が変更されます。
これには、変更するにふさわしいと認定される特段の事情が必要となりますので、実際にはかなり難しいと言えます。
最後に、調停離婚や裁判離婚では、親権者を決めるために家庭裁判所調査官の調査が行われます。自分に有利になるようにその場しのぎのテクニックは控えるべきですが、不利にならないよう、子供の身なりに気をつけるなど注意はしなければなりません。